■ 今回のポイント(2025年6月22日現在)
イランの国会が、世界の原油流通にとって極めて重要な「ホルムズ海峡」の封鎖を承認したと、同国メディアが報じました。
しかしながら、現時点ではその承認はあくまで初期段階のものであり、実際に海峡を封鎖するためには、ペゼシュキアン大統領が議長を務める「最高安全保障委員会」による最終的な決定が必要です。また、イランにおける外交・軍事に関する最終決定権を持つのは最高指導者アリ・ハメネイ師であるため、彼の判断が実行可否に直接影響します。
この動きは、世界経済における重大な地政学リスクの高まりを意味し、エネルギー市場や為替市場など幅広い分野に影響を及ぼす可能性があります。本記事では、大学生や経済を学ぶ読者にもわかりやすいように、背景や関連する制度、各国の対応、そして今後の展望について詳しく解説します。
■ ホルムズ海峡とは?その地政学的重要性
ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾をつなぐ長さ約50km、最も狭い部分で幅約30kmという戦略的に極めて重要な海上交通路です。
実に世界の原油流通量の約30%がこの海峡を通過しており、主要な産油国であるサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)、イラク、イランなどから輸出される原油や天然ガスがこの海峡を経由します。
特に日本にとっては深刻な影響が予想され、輸入する原油の約9割がホルムズ海峡を通っており、万が一封鎖されれば、石油供給が滞り、ガソリン価格や電気料金の上昇、ひいてはインフレ加速や経済活動への制約など、多方面にわたる影響が避けられません。燃料価格の上昇は物流コストに波及し、消費者物価の上昇へとつながる可能性も高まります。
■ イラン国内の意思決定プロセスと制度の特徴
今回の「封鎖承認」は国会レベルでの決議にとどまっており、実行にはさらに以下のような2段階の意思決定が必要とされています:
- 最高安全保障委員会による判断:この委員会は大統領を議長とし、外交・安全保障の中枢機関として機能しています。国会の承認に基づき、封鎖の実施可否を判断します。
- 最高指導者ハメネイ師の承認:イランの政治体制において最も強い権限を持つ存在で、軍事・外交・宗教全般に関する最終的な決定を下すのが彼です。
イランの政治制度は「複合型神権体制」とも言われており、大統領や議会よりも宗教的権威者の影響力が強いため、ハメネイ師の意向が鍵を握っています。封鎖が実行されるか否かは、軍事・外交両面から見たイランの国益判断と直結しています。
■ 市場の即時反応とその背景
この報道が出た直後、金融・商品市場では急激な変動が見られました:
- WTI原油先物価格:81ドル台に急騰し、一時的に82ドルをうかがう場面も。
- 為替市場(ドル円):リスクオフの動きにより、円が買われ158円台前半まで円高が進行。
市場参加者は「ホルムズ海峡の封鎖」という最悪のシナリオを想定し、以下のようなリスク連鎖を意識してポジション調整を行いました:
- 原油供給の減少
- エネルギー価格の上昇(インフレ懸念)
- 各国中央銀行による金融政策運営の難化
- 景気後退リスクの再燃
また、日本にとってもガソリン価格の上昇や貿易収支の悪化、企業収益への影響が意識される局面です。特に製造業や物流業界では、原材料・輸送費のコスト増が企業収益に直接打撃を与える可能性があります。
■ アメリカや国際社会の反応
アメリカのバンス副大統領は22日、NBCのニュース番組に出演し、以下のように発言しました:
- 「イランがホルムズ海峡を封鎖すれば、自国の石油輸出もできなくなる。これはイラン経済にとって自殺行為に等しい」
- 「意味があるのは戦争ではなく、交渉のテーブルにつくことだ」
この発言は、アメリカ政府が現段階では軍事的対抗よりも外交的な圧力や交渉を優先している姿勢を示すもので、同時にイラン側への牽制とも言えます。強い言葉で非難しつつも、対話の余地を残すスタンスを明確にしました。
また、国連やEU諸国からも「緊張のさらなるエスカレーションを回避すべき」とする声明が出ており、国際的な注目がこの地域に集まっています。湾岸諸国も、万が一の衝突回避を望む中で、水面下での外交調整が加速することが見込まれます。
■ 今後の注目点とリスク分析
- イラン国内の意思決定の進展:数日〜1週間以内に、最高安全保障委員会およびハメネイ師による判断が報道される可能性があり、その内容次第で市場が再び大きく動くでしょう。特に「封鎖の可能性を残したままの静観」でも不確実性が市場を揺らします。
- エネルギー価格の持続的な上昇圧力:供給不安が長期化すれば、原油だけでなく天然ガス、ガソリン価格なども上昇基調が続く見通しです。備蓄放出や需要抑制策による短期対応にも限界があります。
- 為替市場のボラティリティ増大:円やスイスフランなど、安全通貨とされる資産に資金が流れ込みやすくなる一方、新興国通貨や資源国通貨は下落リスクを抱えます。ドル円のボラティリティ上昇は投機筋の動きも加速させかねません。
- 株式市場への波及:エネルギーコストの上昇は企業業績を圧迫し、特に運輸・製造業などエネルギー依存度の高い業種が影響を受けるでしょう。加えて、投資家心理の悪化が株式市場全体のセンチメントを冷やす要因となります。
■ まとめと投資家へのアドバイス
ホルムズ海峡をめぐる地政学リスクは、世界経済にとって極めて重大なテーマです。エネルギー安全保障、外交、軍事バランスが複雑に絡み合う状況下において、マーケットの反応も繊細にならざるを得ません。
「市場は噂で動き、事実で修正する」という格言もあるように、短期的な報道に一喜一憂せず、冷静かつ複眼的な視点で情報を読み解く姿勢が重要です。
特に投資家にとっては、過剰なリスクオン・リスクオフ戦略に走るよりも、以下のような観点を中長期的に見極めることが求められます:
- 資産クラス間の相関関係:株式・債券・コモディティなどの関係を分析し、リスク分散を図る。
- 原油・金などコモディティの動向:リスクヘッジ資産としての役割や需給動向を把握する。
- 地政学要因とマクロ経済指標の整合性:インフレ率、GDP成長率、雇用指標などと地政学リスクの影響の組み合わせを評価する。
今後の展開次第では、ホルムズ海峡をめぐる事態が2025年最大の市場変動要因のひとつとなる可能性があり、継続的な注視と柔軟な対応が必要です。
コメント